知人が主催する羽生善治氏の講演会に先日行ってきた。
よく羽生さんの講演に行った人に聞くように、確かに羽生さんは、決して講演がうまいわけではない。
でもそんなことに大して意味はない。
最近よく、感動の押し売りや出来レースのくだらないモノが蔓延しているが、
そういうテクニック的なものとは一線を画す、勝負の世界で生きる男の話には重みがある。
多くは著書「決断力」に書かれていることとであるが、かなりのインパクトがあった。
それは多分、僕がそれを求めていたからだ、と思う。
●直感の70%は正しい
直感とは、閃きとか当てずっぽうのことではなく、今までの経験の中で凝縮されたものが、クリアーに表れたもの。
だが、逆説的ではあるが、直感ばかりを意図して磨こうとすると良くない。
⇒田坂広志さんが著書で書いていたが、論理と基礎を追求した奥に、
静かに直感が降りてくるのだと思う。
まさに「守・破・離」。
●決断とは、勇気を持って前に進むこと。
勇気は「思考」とは別。そして「無謀に挑戦すること」でもない。
きちんと
理解をした上で、リスクをとって進んでいくことである。
●決断力を磨くには実戦あるのみ
将棋の世界で「待った」はNG。
実戦の真剣勝負の、緊張感のなかで行った決断しか身にならない。
自分がリスクをとって実行することで磨かれていくもの。
●ミスを「忘れる」こと。
ミスのあとは、更にミスが起こりやすい。
理由は、
・客観的に見れなくなる
・ミスを取り返したい
・状況が複雑になる
うまく行っているときは、次に行う決断が見えている。
しかし、一回ミスをすると、その流れが断ち切れる。
つまり混沌とした複雑な状態に陥る。
当然、難易度が上がる。
ミスをしたあとは、つい「あのミスがなかったら・・・」と考えてしまう。
この
後悔を取り除くこと=「忘れること」=ゼロベースにすることが大事。
この「忘れる」ということは、「多くを吸収する」と同じくらい大事な能力。
ゼロからまた新しいことに臨んでいけるから。
⇒羽生さんの本を読んでいると、勝負の大事な局面で
ミスをしていたことが分かる。
が、そこから新しい流れを作って、勝利している。
かなりな境地に達しているからこその話だと思うが、
僕は、失敗をすぐに忘れてしまい、反省せずにまた同じ失敗を繰り返す。
反省は必要だけど後悔はするな、ということだろうなと解釈。
そう考えると、ミスはそれほど悪いことじゃないと思えてくる。
●プレッシャーがかかっている状態は、そんなに悪くない。
一番いい状態は、リラックスで自然体。
二番目は、プレッシャーがかかっている状態。
一番悪いのは、やる気がない状態。
自己ベストが1m50cmの高飛びの選手は、2mではプレッシャーを感じない。自分で飛べるわけないと思っているから。
逆に、1m50cm前後では、プレッシャーを感じるだろう。
このプレッシャーは「
もう少し上に行くためのブレイクスルー」を生む要素。
次のステップに行くためのサインである。
●選ぶのではなく「捨てる」
多くのものや情報が溢れる時代。
多くの選択肢から選ぶ能力ではなく、捨てる能力が大事。
「選ぶ」ということをすると、選ば(べ)なかった選択に、必ず悔い(不満)が残る。
味噌ラーメンが食べたいなと思い店に入った場合、まず塩や豚骨などは選択肢から捨てる。
最後に目移りして味噌か醤油か迷ったときは、直感(70%)で味噌、かな。
⇒繁盛しているラーメン屋はメニューが少ない。
極端では、一個しかメニューがない店も。
これは、マーケティング的な話にも通じるヒント。
●つながり(情報・人)
「六次の隔たり」という言葉があるように、世の中は狭い。
つまり、自分は想像以上に人に影響を与えていると意識すべき。
更に情報化社会で、さらにその影響のスピードは速まっている。
つまり、
「自分の決断は実は大きい」。
googleをはじめ、情報や知識はすごいスピードで広がっているが、それ自体には意味はなく、大事なのは「
組み合わせ」。
情報x知識=アイデア、自分の考え、創造である。
今の時代は、色々な組み合わせで"金"の情報をつくることができる「情報の錬金術」の時代だと思う。
その昔、金を生み出す過程で色々な科学的なイノベーションが起こった。
それと同じことが起きている。
●想定外への対応
自分の考えを練る上で大事なことは「
マジョリティにならないこと」。
みんながやっているから、ではなく、それ以外の部分がこれから最も重要になってくる。
いくらgoogleが発達したところで、一人一人が次に何をするかまでは分からない。その
「予想外への対応」=新しいもの。
10手先、50手先をいくらシュミレーションしても、必ず想定外のことが起こる。
そこに対峙してはじめてどう対応するかが、難しくもやり甲斐のある決断である。
今までの知識をもとに想定内のことをやるのではなく、想定外を慌てず(慌てても)楽しんで決断すること。
ドラマも映画も先が読めた時点でつまらなくなるでしょう?
●羽生さんは、自分の将棋を自己採点すると?
30点以下。
舗装された道であればもっとイイ線いくと思うが、そうではない局面では30点以下。
たとえばプロ同士(舗装された道)ではなく、素人同士の大局では、想定外のことばかり起こる。
でも、こういうところから新しいものが生まれる。
プロ同士では進展がない。大人はうまくまとめようとする。
パラダイムシフトを起こすのは若者。
⇒最近、僕もブログで、アンチ富裕層マーケティングを書いている。
いくら購買力がなくともトレンドを作り出すのはいつの時代も若者。
そういう意味で、今一度、若者と向き合うマーケティングの時代が必ず来る。
特にこれはトップシェアを持つメーカーの役目だと僕は思う。
トヨタだって、こういうことをやらねばならない。
⇒やっぱ
CLAの活動は面白い。
●羽生さんなぜ勝てるのか?
・常に負ける覚悟は持っている。
・リスクのとり方を局面によって使い分ける
・自分の決断には限界がある。相手の力を借りる。
・情報は平等なので、その組み合わせと創造力で差別化
・決断のポイントは直感と、最後はそれが「
好きか嫌いか」
・「人事を尽くして天命を待つ」という言葉があり、それでもうまくいかなかった場合、
「やりつくしたから」と言い訳にしないことが大事。ここが分かれ目。
●実際に決断力を磨くには?
【日常生活】
・忘れる(反省+忘れる)
・今までとは違う何かを日常生活で見つける
【勝負】
・自分で責任を取る
・新しい想定外を実戦で経験し、それを楽しむ
・
結果に関わらず、それをやることで後悔するかしないかが決断のポイント
・好きか嫌いか
僕が特に印象に残ったのは、
「実戦の中でしか磨かれない」
「想定外を楽しむ」
「マジョリティにならない」
「ミスを忘れる」(前向きにとらえる)
というところ。
たとえば、
アルピニストがどれだけ山に登ったか、
サーファーがどれだけ波に乗ったか、
ピッチャーがどれだけ試合で投げたか、
ビジネスの世界でも、
どれだけ切った貼ったの世界で生きてきたか、
どれだけ多くの実戦経験を積んだか、
そして、どれだけ多くの決断をしたか、
それしかないのだと思った。
だから、勝負の局面で、途方もないくらい多くの決断を繰り返してきた羽生さんの言葉は、静かで飄々としているのに、力があった。
ご一緒した
JarJar、
水野さんもこの講演について書いているので、ぜひ。